外国の判決と日本の判決の抵触

外国裁判所の確定判決は,日本国内の確定判決と抵触する場合でも,日本国内で執行することができるか,という問題があります。
この点に関し,大阪地方裁判所昭和52年12月22日の判決(判タ361号127頁)があります。

日本の鉄工会社が,製造したプレス機械をアメリカの会社(親会社は日本企業)に販売し,その後同機械がアメリカで転売され,譲渡先で従業員がけがをする事故が起きました。
その従業員が,アメリカで転売した会社とともに,日本の鉄工会社を訴えました(「米国第一訴訟」。なお,訴状は,日本の鉄工会社には送達されませんでした)。
そこで,転売したアメリカの会社は,日本の鉄工会社に対し,同じ裁判所で,米国第一訴訟で自社が負けた場合は日本の鉄工会社に対し27万5000ドル(9900万円)以上の損害賠償を訴求する旨を予告した訴訟を提起しました(「米国第二訴訟」)。
そして,米国第二訴訟は,8万6000ドルを支払えという判決が確定して終了しました。

他方,日本の鉄工会社は,大阪地方裁判所に,米国第二訴訟に対する実質上の反訴として,求償債権不存在確認等の訴訟を提起しました。
そして,同鉄工会社は,この裁判で勝訴し,この判決は確定しました。

その後,アメリカの会社は,米国第二訴訟判決に基づいて,日本の鉄工会社に対し,強制執行することの許可を求めて大阪地裁に訴えを提起しました。

この訴えに対し,大阪地裁は,次のとおり述べて,却下判決を下しました。

「同一司法制度内において相互に矛盾抵触する判決の併存を認めることは法体制全体の秩序をみだすものであるから訴の提起,判決の言渡,確定の前後に関係なく,既に日本裁判所の確定判決がある場合に,それと同一当事者間で,同一事実について矛盾抵触する外国判決を承認することは,日本裁判法の秩序に反し,民訴法200条3号『外国裁判所の判決が日本における公の秩序に反する』ものと解するのが相当である。」

つまり,日本において,外国判決と矛盾抵触する判決がある場合は,判決等の時期に関係なく外国判決に基づく強制執行が認められないことになります。
しかし,この判決に対しては,判決等の時期に関係なく一刀両断に外国判決に基づく強制執行を認めなかった点に批判的な見解もあるようです。

懲罰的損害賠償(Punitive Damages)

アメリカでは,補償的損害賠償(compensatory damages)の他,懲罰的損害賠償(Punitive Damages)が認められることがあります。
補償的損害賠償は,日本でも認められる相当因果関係のある損害の賠償のことです。
これに対し,懲罰的損害賠償は,実際の損害とは無関係に,制裁的に多額の賠償を課し,二度とそのようなことをしないように予防するために認められるものです。巨大な企業が,誰かの犠牲の上で大きな利益をあげている時に,懲罰的損害賠償を認めて,そのような営利行為をしても割に合わないことを知らしめるために,認められることが多いようです。

これに対し,日本では,懲罰的損害賠償が認められることはありません。

では,アメリカの会社がアメリカで日本の会社に対して裁判を提起し,懲罰的損害賠償が認められたとき,そのアメリカの会社は,日本にある会社の財産に対して強制執行をすることができるのでしょうか。

これに関して判断した判決に,最高裁平成9年7月11日第二小法廷判決があります。
その法的構成は次のとおりです。

まず,民事訴訟法118条は,次のように規定しています。

 (外国裁判所の確定判決の効力)
  第118条  外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。
   一  法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
   二  敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
   三  判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
   四  相互の保証があること。

  本件の裁判では,懲罰的損害賠償請求が「公の秩序」(3号)に反しないかどうかが検討されました。
  最高裁は,以下の理由で,「本件外国判決のうち,補償的損害賠償及び訴訟費用に加えて,見せしめと制裁のために被上告会社に対し懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分は,我が国の公の秩序に反するから,その効力を有しないものとしなければならない。」としました。

「懲罰的損害賠償の制度は,悪性の強い行為をした加害者に対し,実際に生じた損害の賠償に加えて,さらに賠償金の支払を命ずることにより,加害者に制裁を加え,かつ,将来における同様の行為を抑止しようとするものであることが明らかであって,その目的からすると,むしろ我が国における罰金等の刑罰とほぼ同様の意義を有するものということができる。
これに対し,我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり,加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防を目的とするものではない。
もっとも,加害者に対して損害賠償義務を課することによって,結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても,それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的,副次的な効果にすぎず,加害者に対する制裁及び一般予防を本来的な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである。我が国においては加害者に対して制裁を科し,将来の同様の行為を抑止することは,刑事上又は行政上の制裁にゆだねられているのである。
そうしてみると,不法行為の当事者間において,被害者が加害者から,実際に生じた損害の賠償に加えて,制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは,右に見た我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものであると認められる。」

つまり,獲得した判決が他国で強制執行をするに当たってその効力が認められないこともあるわけです。
この不都合を回避するために,仲裁合意をしておくということも検討しておきましょう。

どこの国の法律を準拠法にするか① 「当事者自治の原則」

当事者自治の原則(Prinzip der Parteiautonomie)とは,契約の準拠法については,当事者の意思に委ねるという原則です。

法の適用に関する通則法第7条には,次のような定めがあります。

第七条  法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。

当事者自治の原則に関して,預金契約の準拠法がどこかを示した判例があります。
事案は次のとおりです。

B会社がY銀行香港支店と当座貸越契約を締結するに当たり,B会社の代表取締役AがY銀行東京支店と定期預金契約を締結し,その定期預金証書をB会社の債務の担保として香港支店に送付しました。
その後,B会社が返済を怠ったため,Y銀行香港支店は,担保に取っていた定期預金を解約するよう,Y銀行東京支店に依頼しました。しかし,Y銀行東京支店は,外為法上の問題から送金できなかったため,定期預金を解約することはしませんでした。
他方で,Aは,Xから借金し,その弁済についての和解が成立していました。Xは,その和解調書債務名義としてAのY銀行東京支店に対する定期預金債権について転付命令を得て,その正本がY銀行東京支店に送達されました。
XがY銀行東京支店に同定期預金債権の支払いを求めたところ,Y銀行は,本件定期預金契約は,BとY銀行香港支店との間の当座貸越取引の前提をなすので,両者は直接関連・結合する関係にあるとして,香港法によるべきと反論しました。

この争いについて,最高裁昭和53年4月20日第一小法廷判決は,次のような理由で,日本法が準拠法であるとしてXの請求を認めました。

まず,本件定期預金証書を担保に入れたことが債権質にあたるとしたうえで,その債権質に適用されるべき法律について,次のように判断しました。
法の適用に関する通則法13条1項は,物権の準拠法は,その目的物の所在地法によるとしています。債権質は物権ですが,その目的物は債権自体ですので,結局,債権自体の準拠法によるとしました。
そこで,債権の準拠法がどこか,ということになりますが,それについては,法の適用に関する通則法7条により決せられるとしました。
通則法7条は,当事者自治の原則について定めていますが,本件は,当事者の明示の意思表示はありませんでした。しかし,
①Aは当時日本に居住していた
②円を対象とする定期預金契約であった
③Y銀行東京支店が,他の一般銀行取引でも使用する附合契約を使用した
④Y銀行東京支店が,主務大臣の免許を受けた営業所であり銀行とみなされる(銀行法32条)
という事情があるので,「当事者は本件定期預金契約上の債権に関する準拠法としてY東京支店の所在地法である日本法を黙示的に指定したものと解すべきである」としました。

確実に,特定の国の法律を使いたいということであれば,明示的にそれを定めておかなければ,不測の事態が生じる危険性がありますので,注意しなければなりませんね。

インコタームズ CIF

今回は,インコタームズの一つであるCIFについて説明します。
CIFは,Cost Insurance and Freight(運賃保険料込み)の略で,売主が運送費と保険料を負担する取引条件です。

引渡しは,売主が輸出港において,買主によって指定された本船上に目的物を置くことによって完了しますが,そこから輸入港までの輸送賃と保険料は売主が負担するのです。

コンテナ船に積んだりヤードで運送人に引き渡す場合は,CIFではなく,CIP(Carriage and Insurance Paid to〜)を使用するのが適切です。なぜなら,CIFは,本船に直接目的物を積み込むことが前提となっているのに対し,CIPは,そのような前提がないからです。Paid toの後には,輸入地を記載し,「輸入地までの運送賃と保険は売主によって支払われています」ということを明確にします。

Indemnify (補償)とPL責任

Indemnifyとは,「補償する」の意味で,つまり,現在すでに被っている損害と将来被ることが予測される損害を当事者のどちらが負担するかを定める条項です。

  • Buyer[Seller] shall indemnify and hold Seller[Buyer] harmless from any and all liabilities, costs and expenses in connetion with claims by third parties regarding: any unlawful act by Buyer[Seller]; any failure by Buyer[Seller] to fulfill any of its obligations under the Agreement.

Indemnifyhold harmlessは,セットで使われることが多いです。

これと併せて,PL責任(製造物責任)の規定の仕方が問題となることもあります。
上記の例文では, “in connetion with claims by third parties ”という文言が入っていますので,これをもってPL責任を全て一方当事者に負わせることが可能になります。
もし,PL責任を負わせられる方であれば,この責任を限定するような記載にしてもらうことが大切です。

コモン・ローと日本法の違い

日本の法律は,制定法主義で定められています。
つまり,国会で作られた制定法が法律として効力をもつ制度です。
判例や慣習・条理などは,法律の解釈を助けるための参考資料になるだけです。

他方で,英米では,コモン・ロー制度がとられています。
この制度の下では,基本的に制定法ではなく過去の裁判例それ自体が法律として機能します。
ただし,最近では,英米系の国々でも,制定法を定めることも少なくありません。

では,これらの法制度の違いによって,実務上どのような影響を受けるのでしょうか。
まず,何を基準として行動すべきかという行動規範を探すとき,制定法主義の下では,六法全書を開いて法律を探します。そこに書かれている条文と自分の行動を照らし合わせて,その是非を検討します。
他方で,コモン・ロー制度の下では,まず,過去の集積された裁判例のうちから,自分の行動に限りなく近いものを探す必要があります。
制定法主義の下では,法律の解釈が問題となりますし,そもそも適合する法律を探すことも一苦労です。
コモン・ロー制度の下でも,過去の裁判例が頭にしっかり入っていなければ,法律を見つけだすことが大変です。
どちらにせよ,法律家としてアドバイスをするには,長年のたゆまぬ勉強が必要だということです。

ディスカバリー(日本とアメリカの違い)

 日本とアメリカの民事訴訟手続で最も異なると言われているのが,Discovery(証拠開示手続)の制度です。

 この制度は,法廷でのtrial(審理手続)の準備のために,当事者双方が互いに質問したり第三者に質問したりして証拠を保全する手続です。

 未知の証拠の提出による不意打ちを防止し,事前の十分な事実の把握と準備の機会を互いに与えて,trialにおけるフェアな対決を可能にすることを目的とします。

 Discoveryには,主に次のような種類のものがあります。

 Request for production of documents(文書等の提出要求)
 一方当事者が相手方に対してその管理下にある文書等の提出を求め,またその閲覧複写等を認めるよう要求する手続です。相手方の管理下にある不動産への立ち入りを求めることもできます。要求を受けた当事者は,30日以内に書面で要求を認めるか異議を述べるかを回答しなければなりません。

 Interrogatory(質問書)
 一方当事者が相手方に対して質問書を送付し,相手方は30日以内に調査して回答するという手続です。

 Deposition(証言録取)
 弁護士による法廷外での証人尋問です。証人が宣誓のうえ弁護士が質問をし,court reporter(法廷記録者)が証言を正式な記録に残します。質問をするのは証人に敵対する側の弁護士であることが一般的であり,その弁護士の事務所で行われる場合が多いです。

 Discovery違反の場合には次のような制裁があります。

 費用支払命令
 相手方が開示に応じない場合に,開示の命令を求める申立を裁判所にすることができますが,この申立が認められると,開示しなかった相手方は命令に要した費用を支払わなければなりません。

 直接制裁
 開示の命令に服さず,または開示要求を無視する当事者に対して,裁判所が特定の事実があったものとみなされます。悪質な場合には請求を棄却し,または欠席判決を下されることもあります。

 裁判所侮辱罪
 裁判所の命令に従わない場合には,裁判所侮辱罪に問われ,投獄され,または罰金が課せられます。