仲裁か,裁判か

外国の企業との間で契約書を作成するときに,紛争解決方法を定めておく必要があります。

定める紛争解決方法には,大きく分けて,訴訟(裁判)と仲裁があります。

訴訟も仲裁も,法律に基づいて判断が下される点では同じですが,仲裁は,中立的な紛争解決手段であり,仲裁地・使用言語・準拠法を選べる,承認・執行の安定性が高い,などの点で,国際商取引ではよく使われます。

中立的な紛争解決手段
訴訟の場合,どちらかの国の裁判所で行われることになりますが,そうすると,その国の公務員である裁判官が訴訟を指揮し判断することになりますので,場合によっては,取引の相手方が「本当に中立にしてもらっているのか」と不安に感じることがあります。

他方で,仲裁の場合,当事者が①仲裁機関を選べる(機関仲裁の場合),②仲裁人を選べる,という利点があります。例えば,仲裁人を複数選ぶ場合に,それぞれの仲裁人の国籍をどのようにするかを定めておくこともできます。自らが選んだ機関や仲裁人のもとで手続をしてもらえるので,中立性に不安を覚えることがありません。

仲裁地・使用言語・準拠法を選べる
訴訟の場合,管轄が認められる限り,どの国の裁判所で手続を進めるかについては原告が主導権を握ります。そして,一般的には訴訟する国の裁判地の言語が使われます(日本では裁判所法74条で日本語を使うと定められています)。また,準拠法は,裁判所が法律に従って判断して定めます。

他方で,仲裁の場合,当事者間の合意で,仲裁地・使用言語・準拠法を定めることができます。使用言語も1つでなければならないということはなく,例えば,英語と日本語,というようにすることもできます。

承認・執行の安定性が高い
訴訟に基づいて執行する場合,例えば売買代金を請求する訴訟を提起して勝訴判決を得,勝訴判決に基づいて強制執行をして財産を差し押さえることになります。ところが,仮に日本で勝訴判決を得ても,相手国内での強制執行しようとすると,相手国の裁判所で日本の判決を承認してもらう必要がありますが,判決の相互保証など特別のリレーションシップがない国では承認してもらうことができません。例えば,日本とアメリカの間では判決の相互保証がありますが,中国とはありませんので,基本的に日本での勝訴判決に基づいて中国で強制執行することはできないことになります。これでは,勝訴判決を得た意味がありません。

他方で,仲裁の場合,ニューヨーク条約に批准している国の企業に対する仲裁判断であれば,相手国の裁判所は仲裁判断を承認するはずですので,仲裁判断に基づいて相手国内で強制執行できる可能性・安定性が高いといえます。このニューヨーク条約には多くの国が加盟しており,例えば中国も加盟していますので,中国の企業と取引をするときには,紛争解決手段を「仲裁」としておくのが賢明です。