CISG(ウィーン売買条約)

CISGは,United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goodsの略で,通称ウィーン売買条約と呼ばれています。

この条約は,国際物品売買契約に関する一般的条項を定めたもので,強行法規は含まれていません。
ですから,当事者が契約で合意した内容に反する条項は適用されることはないのです。
ただ,当事者が契約で合意しておらず,解釈が曖昧なときには,CISGを使って紛争を解決することになります。

このCISGは,

  • 異なった国に営業所を有する当事者間の売買,かつ,
  • 両当事者の営業所が締約国の場合,又は国際司法が締約国法を準拠法として指定する場合

に適用されます。

CISGの締約国は,現在76カ国あり,主な国は,日本,アメリカ,中国,韓国,ロシア,オーストラリア,カナダ,メキシコ,ペルー,イギリス以外の欧州,モンゴル,シンガポールニュージーランドイラク等です。
詳しくは,UNCITRALのホームページに掲載されているとおりです。
http://www.uncitral.org/uncitral/en/uncitral_texts/sale_goods/1980CISG_status.html

他方,非締約国には,イギリス,香港,台湾,タイ,マレーシア,ベトナム,フィリピン,ミャンマーインドネシア,インド,パキスタンバングラデシュスリランカ等があります。

日本は2009年8月にCISGを国内法的に発効させているので,締約国を相手国として売買契約を締結する場合には,契約で明確にCISGを排除する条項をいれない限り,CISGが適用されます。
他方で,日本の企業が非締約国の企業と売買契約を締結する場合には,自動的にCISGが適用されることはありません。例えば,日本の企業がインドの企業と売買契約を締結する際に,インドの法律を準拠法と定めてしまうと,CISGは適用されず,インドの法律が適用されてしまいます。逆に,日本法を準拠法として定めておくと,日本の国際私法によりCISGが適用されます。

CISGの条項は全て,任意法規ですので,当事者が合意で条項ごとに適用を排除することができます。
また,ほとんどの条項が日本の民法や商法に近いものですので,それほどおそれることはありません。
ただし,注意すべき条項がいくつかありますので,以下,簡単に説明します。

CISG38条(買主による物品の検査)
買主は,状況に応じて実行可能な限り短い期間内に,物品を検査し,又は検査させなければなりません。

CISG48条(引渡期日後の売主の追完・修補権)
売主は,引渡しの期日後も,不合理に遅滞せず,かつ,買主に対して不合理な不便又は買主の支出した
費用につき自己から償還を受けることについての不安を生じさせない場合には,自己の費用負担によりいかなる義務の不履行も追完することができる,とされています。
ただし,買主は,この条約に規定する損害賠償の請求をする権利を保持します。

CISG72条(履行期前の契約解除)
当事者の一方は,相手方が重大な契約違反を行うであろうことが契約の履行期日前に明白である場合には,契約の解除の意思表示をすることができます。


CISGは,締約国同士の契約においては,共通の言語のようなもので,トラブルの解決に有効に活用することが期待されます。ただし,十分に内容を把握しておかなければ,後で痛い目にあいますので,ご注意ください。