どこの国の法律を準拠法にするか① 「当事者自治の原則」

当事者自治の原則(Prinzip der Parteiautonomie)とは,契約の準拠法については,当事者の意思に委ねるという原則です。

法の適用に関する通則法第7条には,次のような定めがあります。

第七条  法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。

当事者自治の原則に関して,預金契約の準拠法がどこかを示した判例があります。
事案は次のとおりです。

B会社がY銀行香港支店と当座貸越契約を締結するに当たり,B会社の代表取締役AがY銀行東京支店と定期預金契約を締結し,その定期預金証書をB会社の債務の担保として香港支店に送付しました。
その後,B会社が返済を怠ったため,Y銀行香港支店は,担保に取っていた定期預金を解約するよう,Y銀行東京支店に依頼しました。しかし,Y銀行東京支店は,外為法上の問題から送金できなかったため,定期預金を解約することはしませんでした。
他方で,Aは,Xから借金し,その弁済についての和解が成立していました。Xは,その和解調書債務名義としてAのY銀行東京支店に対する定期預金債権について転付命令を得て,その正本がY銀行東京支店に送達されました。
XがY銀行東京支店に同定期預金債権の支払いを求めたところ,Y銀行は,本件定期預金契約は,BとY銀行香港支店との間の当座貸越取引の前提をなすので,両者は直接関連・結合する関係にあるとして,香港法によるべきと反論しました。

この争いについて,最高裁昭和53年4月20日第一小法廷判決は,次のような理由で,日本法が準拠法であるとしてXの請求を認めました。

まず,本件定期預金証書を担保に入れたことが債権質にあたるとしたうえで,その債権質に適用されるべき法律について,次のように判断しました。
法の適用に関する通則法13条1項は,物権の準拠法は,その目的物の所在地法によるとしています。債権質は物権ですが,その目的物は債権自体ですので,結局,債権自体の準拠法によるとしました。
そこで,債権の準拠法がどこか,ということになりますが,それについては,法の適用に関する通則法7条により決せられるとしました。
通則法7条は,当事者自治の原則について定めていますが,本件は,当事者の明示の意思表示はありませんでした。しかし,
①Aは当時日本に居住していた
②円を対象とする定期預金契約であった
③Y銀行東京支店が,他の一般銀行取引でも使用する附合契約を使用した
④Y銀行東京支店が,主務大臣の免許を受けた営業所であり銀行とみなされる(銀行法32条)
という事情があるので,「当事者は本件定期預金契約上の債権に関する準拠法としてY東京支店の所在地法である日本法を黙示的に指定したものと解すべきである」としました。

確実に,特定の国の法律を使いたいということであれば,明示的にそれを定めておかなければ,不測の事態が生じる危険性がありますので,注意しなければなりませんね。